図版多数(油彩/水墨/素描/版画他) 富山秀男:平野人 森田恒友-その心の軌跡/印譜一覧/作品抄(油彩128点/水彩98点)
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近年「埼玉県立近代美術館」一階で開かれる、かつての「常設展示」を今はこういう。「MOMASコレクション」展。
所蔵作品がその時々のテーマ性のあるプログラムに則って、標題され、分類・章立てて紹介されるものだ。これにより、ワンフロアーを歩み進むうちに、美術のなんたるかが大分系統的に理解できて、新鮮な驚きに出会える。
一月から四月中旬までのプログラムは、
1「ヌード」と「ネイキッド」-裸体表現のスペクトル。
2 見えるものと見えないもの・2-現代彫刻の一断面。
3 平野の詩人-森田恒友。
4 リサーチ・プログラム:ゴーギャンの版画……だ。
*「自画像」22歳
*第3巻第1号1909年1月
平成二十二年度の年頭からこの方、この時期、一コーナーが恒友作品と知って、随分と楽しみに待った。企画案内には「平野の詩人-森田恒友 油彩画と日本画の両方を手掛け、自然を見つめ続けた埼玉ゆかりの画家・森田恒友の軌跡をたどります」とある。縁あって馴れ親しむようになった郷土の画家がどのように捉えられ、展示されるのか。この日は担当学芸員による「サンデートーク」も開かれ、会場には熱心な愛好家が姿をみせた。平山都学芸員は二十年前に久保島の生家を訪れた際の印象を、「水田の広がるまさに長閑な関東平野を感じるところでした」と話し始めた。生前の森田仁介さん(恒友の女婿)による作品寄贈なども担当した方であり、話の端々に恒友を敬愛する気持ちが滲み出て熊谷市民としては誇らしく、嬉しい限り。作品は初期から晩年までを網羅し、画家の生きた時代の世界史や美術界の流れと結びつけて熱っぽく解説された。
学校を休学して稼業の店番を手伝いながらチラシの裏にでも何にでも模写していた病弱な青年は、上京後「不同舎」で徹底的に写生を叩き込まれる。美学校では同期の青木繁と親しく交わりつつ「明暗」をなし、またいろんな画風にチャレンジ。その頃からの特徴として画面には必ず人物が描き込まれることが示唆された。風景と人物は一体化しとけ込んでいる。
※「フランス風景」1915年
※「初夏の図」
1926~1927年頃
資料:
*『平野人・そして水墨の世界 森田恒友展』
熊谷市立図書館1997年※『セザンヌから浴衣がけの絵画へ 平野の詩人 森田恒友とその時代』
埼玉県立近代美術館1991年 嬉しいことに、日本で初めての美術雑誌「方寸」復刻版も暫くぶりに間近にできた。自腹で発行し、評論も自前、刷り作業などもすべて人手に寄らない同人誌は、前近代を引きずる我が国にあっては記念碑的なもの。内容的にも庶民の苦しい現実生活への視点に貫かれている。その頃の仲間、山本鼎、小杉放庵らが恒友没後に刊行した墓標ともいうべき追悼集と共によく記憶されるべきだ。この感を改めて強くもった。大正三年から四年にかけて、第一次世界大戦の渦中にまきこまれながらも、恒友は一年半で二十数点のセザンヌ風の油絵を描いた。当時フランスでは印象派から訣別し孤高の生涯を送っていたセザンヌの回顧展が開かれ、ピカソも尊敬の念を捧げていた。「セザンヌの紹介者」たる恒友だ。平山さんはその画風の変遷を具体的にセザンヌの構図・色の塗り方と対比した。だが、借り物でない表現を探しに行った彼が結局自分に刻みつけたのは、その画法というより、画家としての姿勢への共感だった。風景を描くときの理想をそこにみた。
帰国後放心状態だった画家は、日本の自然を描くには油彩ではだめなことを悟り、伝統の世界に気付いて、自分らしい絵とは何か、と格闘を続けた。その結果、がっちりとした構築性は薄らぎ、「自然は共にあり、何もしなくても美しい」という日本的な叙情性に移り、画風は水墨素描に変わる。だがこれは決して日本回帰ではない。
恒友は現実の風景ではなく、自分も含めて肌と視覚で感じ取った自然の詩情を追い求めた。たとえば自分は風の中にいる。あくまでもこれはリアリズム。また水墨画の方が注文が多かったという内情もあった。油彩を捨てたわけではない。最後の作品「尾瀬沼」は新緑の美しい大作だ。また、水墨画に描きこまれる夫子や子ども、犬などは何とも愛らしい。
当館で「セザンヌから浴衣がけの絵画へ 森田恒友とその時代」展が開催されたのは平成三年のことだ。今もその絵は画廊主などのプロが売り物としてでなく、個人収集品として秘蔵する「真の画家」だという。純粋に画業を追求した人。その作品は大きな展覧会では欠かせないものとして毎年、ここから二.三点借り出されて行く。そんな存在ときいて恒友を更に見直した。
この企画は四月十七日まで。
美術館内のレストランでは企画に合わせたテーマのランチが楽しい。傍らの北浦和公園の音楽噴水とそのライトアップは映画ロケにも使われたばかり。
お薦めのスポットだ。